ハーマンモデルは、自己理解及び他者理解を助け、コミュニケーションの円滑化を図ることが可能である。また、利き脳のバランスを利用したハイパフォーマンスな組織の構築も可能とするのである(この点については別稿に譲るものとする)。
ハーマンモデルは、ロジャー・スペリーの右脳・左脳モデルとポール・マクリーンの三位一体型脳モデルを複合的に組み合わせたものである。右脳・左脳モデルはご存知のとおり、右脳を「イメージ脳」、左脳を「言語脳」と捉える。三位一体型脳モデルは、人間の脳は段階的に爬虫類の脳、哺乳類の脳の順に発達し(辺縁皮質)、さらに大脳新皮質で覆われているというもので、辺縁系を「本能的・感情的」、大脳新皮質を「事実認識・理知的」と捉える。
つまり、ハーマンモデルは、脳を右脳・左脳に分け、さらに、左右それぞれを大脳新皮質、辺縁皮質に分け、脳の機能を4象限に分けるのである。
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人は、目にしろ、耳にしろ、手同様に利き目、利き耳があり、主に使う側と補助的に使う側とに分けることができる。それは脳にも言えることであり、利き脳というのが存在するのである。利き脳は4分割された脳の内、単純にどれか一つが優位であるというわけではなく、左脳優位型や大脳新皮質優位型など、2象限優位型もいれば、全象限同位という人も稀におり、複合的である。
どのような優位性型が良い・悪い、優れている・劣っているという問題ではない。その利き脳の優位性により、その人の思考パターン・行動パターンというのが現れてくるというのが、脳優位性の概念であり、ハーマンモデルの基本的な考え方なのである。
利き脳は、良く発達していて、その人の思考パターン・行動パターンをつくりだすのである。利き手を想像してみるとわかりやすいのだが、利き手の方がずっと発達していて、細かな作業ができる。理論的には、反対側の手でも訓練すれば、利き手同様の作業ができるのだが、使いやすい方を使うのが人間心理であり、よく使うからさらに発達するのである。同様に利き脳を使う思考が、その人にとって使いやすく、また良く使うために発達し、それにより、「好み」というのが現れ、思考パターン・行動パターンが生ずるのである。
思考パターン・行動パターンの変化というのは、利き脳の変化や以前優位性の低かった脳の発達を伴うのである。
次に示す例は、各象限の思考スタイルをあらわす極端な事例であるが、1件の事故を目撃した4人の視点である。
A(事実) 「そして再び・・・法医学における否定し難い事実・・・血液型、指紋、ペンキ破片の分光スペクトル分析は疑いなく・・・」 |
D(未来) 「この事件は、酔っ払い運転と欠陥車の致命的組み合わせを実証している。これら2つの問題は全国的に広がっており、次世代の国民を適切に保護するために国家の早急な対応が求められている。」 |
B(形式) 「4月9日(木)午後3時30分、コロンバス北方15マイルの国道9号線上時速35マイルに制限されたスクールゾーンを、黒い1978年型プリムス4ドアセダンは時速75マイルで走っていた」 |
C(感情) 「泣き叫ぶ母親は立ちすくむ容疑者に食ってかかり、警官はいらだちながら起こる大衆を抑えようとする、その前には潰れたスクールバスと血にまみれた事故被害者達の目を覆いたくなる恐ろしい情景があった」 |
このように、脳優位は思考スタイルの傾向をつくり、物の見方を大きく変える。コミュニケーションにおいては、対角象限同士は、対立することすらよくある。
事実や理論を重視するA象限の人間にしてみれば、感情的なものの見方をするC象限の人間にいらいらさせられることがあるだろう。逆に、C象限の人間にしてみれば、何でもかんでも理論で攻め立ててくるA象限にいらいらさせられることもあるだろう。また、形式や計画性を重視するB象限の人間にしてみれば、無鉄砲なD象限の人間にあきれ返ることもあるだろう。逆に、D象限の人間にしてみれば、B象限の人間を「臨機応変さがない」と非難するかもしれない。
これは、思考スタイルの違いによる必然とも言える。
しかし、思考スタイルの違いを対立の必然と捉えるだけでは、進歩がない。むしろ、対立する点が理解できれば、対立しないように互いに気を配ることも可能である。お互いの思考スタイルを理解して図るコミュニケーションは、お互いの妥協や建設的な対話が可能にする。視点の違うもの同士の対話は、創造的にもなりうるのである。
各象限間のコミュニケーションに関する相関関係をまとめると次のようになる。
次に、各象限の人間がどのような言葉をよく使い、他人が軽蔑して使う表現についてまとめると次のようになる。
良く使う言葉
A象限
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D象限
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B象限
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C象限
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A象限
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D象限
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B象限
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C象限
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もちろん、自分がどの象限の人間で、どのような思考スタイルをしていることを理解するのが先決だが、違う象限の人間が求める要点も理解し、それに答えることにより、コミュニケーションの円滑化を図ることが出来る。
各象限とのコミュニケーションを図る上でのチェックポイントは次のようになる。
コミュニケーションスタイルのチェックリスト
A象限
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D象限
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B象限
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C象限
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聞き手によって対応を変えることや、全象限のチェックポイントを網羅することを頭に入れておくと良い。
さて、コミュニケーションを一つの作業として定義する場合、私は「自己と他者の同意点・相違点を探りあい相違を理解する作業、及び知の交換(共有)から新しい知の発見・創造への方向性を探りあい、変革への芽を育てる」と定義する。人間の争いは、大体にして、普遍的又は常識的な考え方が存在するとの認識や、他者理解の無さから生ずる。前者は、人それぞれに考え方があり、多様性を許容できない点に誤りがあり、後者は、多様性を許容できても、同質人間といる方が居心地良いために、異質者を理解しようとしないか、理解しようとする努力が足りないのである。
コミュニケーションの基本は、相互理解を深めることである。多様性の時代といわれ、すべて同じ考えをする人はいないが、全員が全員、すべての事項について全く違う考えをもつというわけでもなく、似たような思考パターンを持つものがいるのである。それを、脳の優位性というものを基本にパターン化したのが、ハーマンモデルなのである。
すべての考え方の違いを言動や行動によって理解するのは難しく、その点、モデル化されたパターンからある程度の推測ができることは、コミュニケーションの円滑化を図ることができるのである。自分がモデル中のどの型の人間であり、相手がどの型の人間かがわかっていれば(または、キーポイント的項目に関するものだけ観察し、分類することにより)、それぞれの型同士での争いの起こりやすいパターンも分かるため、そこに気をつけた言動を取るようにすることができ、関係停止や思考停止にならずにすむのである。
相互理解の重視というのは、少数意見の排除及びそれら少数者の思考停止を防ぐため、多数決による議決というのを最小限に抑え、全会一致のコンセンサス方式への移行を進めることができる。コンセンサス方式というのは、ASEANの会議でも用いられているが、全員が少なからず納得し、全会一致を持って議決される。全員が納得している分、それぞれがそれなりのモチベーションを維持することができ、離反者が出ずらいため、信頼も向上するのである。
相互理解は、信頼関係の向上に繋がり、それが組織内、パートナー企業、顧客に対して波及していくことは、結果的に、組織としてのパフォーマンスの向上にも繋がるのである。
正確な優位性の判定は、「株式会社ハーマン・インターナショナル・ジャパン」が実施している。しかし、以下で簡易的な脳優位性の判定を行うことが出来る。
まず、自己理解を図ることが重要である。次に、コミュニケーションを取る他者にも実施してもらうと良いだろう。そして、それを共有化する。そうすることで相互理解が深まる可能性は一段と高くなるだろう。
他者に実施してもらうのが難しいのなら、その他者をイメージから推測して脳優位を判定してみるのも価値あるだろう。少なくとも、自分がその人と付き合うときに気をつけることを判断することは出来るのである。
Q1.あなたが最優先する8項目を選びなさい。(心理的活動と思考モード)
A |
D |
作業計画 計画する 手作業 |
人間関係 表現する 感覚的 |
Q2.あなたの長期的職業生活に最重要な8項目を選びなさい。(キャリアの要素)
A |
D |
機械的 固定する 法律的 農業的 |
促進する 教える 音楽的 |
Q3.あなたが理想とする仕事が要求する8項目を選びなさい。(仕事の要求)
A |
D |
組織化 政策定型化 構築する |
促進する 教える 相談する |
Q.各問で選択した項目を象限ごとに数えます。
A Q1. Q2. Q3. 合計 |
D Q1. Q2. Q3. 合計 |
B Q1. Q2. Q3. 合計 |
C Q1. Q2. Q3. 合計 |
筆者の場合、A12、B1、C4、D7となり、A象限優位又はAD象限優位となる。
・ネッド・ハーマン(高梨智弘監訳)『ハーマンモデル−個人と組織の価値想像力開発−』(2000).
history of update
ver.1.10 2005.01.23 「ハーマンモデルの原理」の図を変更。
ver.1.00 2005.01.06 opened to the public.
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