マネジメント(組織)の役割

マネジメントなしに組織は存在しない

  1. マネジメントは、企業、政府機関、大学、研究所、病院、軍などの組織に特有の機関である。組織が機能するためには、マネジメントが成果をあげなければならない。組織がなければマネジメントもない。しかし、マネジメントがなければ組織もない。
  2. マネジメントと言うものは、所有権、階級、権力から独立し存在でなければならない。マネジメントとは、成果に対する責任に由来する客観的な機能である。

マネジメントの役割

企業をはじめとするあらゆる組織が社会の機関である。組織が存在するのは組織自体のためではなく、自らの機能を果たすことによって、社会、コミュニティ、個人のニーズを満たすためである。組織は、目的ではなく、手段である。それらの中核の機関がマネジメントである。マネジメントには、自らの組織をして社会に貢献させるうえで三つの役割がある。それら三つの役割は、異質ではあるが同じように重要である。

  1. 自らの組織に特有の使命を果たす。マネジメントは、組織に特有の使命、すなわちそれぞれの目的を果たすために存在する。
  2. 仕事を通じて働く人たちを生かす。現代社会においては、組織こそ、一人一人の人間にとって、生計の糧、社会的地位、コミュニティとの絆を手にし、自己実現を図る手段である。当然働く人を生かすことが重要な意味を持つ。
  3. 自らが社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題について貢献する。マネジメントには、自らの組織が社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題の解決に貢献する役割がある。

本稿では、上記三つを取り上げるが、その他のマネジメントの役割として、次の二つがある。

  1. マネジメントは、常に、現在と未来、短期と長期を見ていかなければならない。存続と健全さを犠牲にして、目先の利益を手にすることに価値はない。逆に、壮大な未来を手にしようとして危機を招くことは無責任である。今日では、短期的な経済上の意思決定が環境や資源に与える長期的影響にも考慮しなければならない。はっきりしていることは、未来は現在とは違うと言うことだけである。未来は断絶の向こう側にある。だが未来は、それが現在といかに違ったものになるとしても、現在からしか到達できない。未知への跳躍を大きくしようとするほど、基礎をしっかりさせなければならない。
  2. マネジメントは管理する。すでに存在し、すでに知られているものを管理する。同時に、マネジメントは起業家とならなければならない。成果の小さな分野、縮小しつつある分野から、成果の大きな分野、しかも増大する分野へと資源を向けなければならない。そのために昨日を捨て、既に存在しているもの、知られているものを陳腐化しなければならない。明日を創造しなければならない。

企業の目的

企業とは何かを知るためには、企業の目的から考えなければならない。企業の目的は、それぞれの企業の外にある。企業は社会の機関であり、その目的は社会にある。企業の目的の定義は一つしかない。それは、顧客を創造することである。市場を作るのは、神や自然や経済的な力ではなく企業である。企業は、すでに欲求が感じられているところへ、その欲求を満足させる手段を提供する。有効需要に変えられるまでは、潜在的な欲求であるに過ぎない。有効需要に変えられて、始めて顧客と市場が誕生する。欲求が感じられていないこともある。コピー機やコンピュータへの欲求は、それが手に入るようになって始めて生まれた。イノベーション、広告、セールスによって欲求を創造するまで、欲求は存在しなかった。

企業とは何かを決めるのは、顧客である。なぜなら顧客だけが、財やサービスに対する支払いの意志を持ち、経済資源を富に、モノを財に変えるからである。しかも顧客が価値を認め購入するものは、財やサービスそのものではない。財やサービスが提供するもの、すなわち効用である。企業の目的は、顧客の創造である。したがって、企業は二つの、そして二つだけの基本的な機能を持つ。それがマーケティングとイノベーションである。マーケティングとイノベーションだけが成果をもたらす。

マーケティング

真のマーケティングは顧客からスタートする。すなわち現実、欲求、価値からスタートする。「われわれは何を売りたいか」ではなく、「顧客は何を買いたいか」を問う。「われわれの製品やサービスにできることはこれである」ではなく、「顧客が価値ありとし、必要とし、求めている満足がこれである」と言う。マーケティングの理想は、販売を不要にすることである。マーケティングが目指すものは、顧客を理解し、製品とサービスを顧客にあわせ、おのずから売れるようにすることである。

イノベーション−新しい満足を生み出す

企業は、経済的な財とサービスを供給するだけでなく、よりよく、より経済的な財とサービスを供給しなければならない。企業そのものは、より大きくなる必要はないが、常によりよくならなければならない。

イノベーションとは、発明ことではない。技術のみに関するコンセプトでもない。経済に関わることである。経済的なイノベーション、さらに社会的なイノベーションは、技術のイノベーション以上に重要である。イノベーションを単なる一つの職能と見なすことはできない。企業のあらゆる部門、職能、活動に及ぶ。イノベーションとは、人的資源や動的資源に対し、より大きな富を生み出す新しい能力をもたらすことである。当然マネジメントは、社会のニーズを事業の機会として据えなければならない。このことは、社会、学校、医療、都市、環境などのニーズが強く意識されている今日、特に強調されるべきである。

生産性に影響を与える要因

顧客の創造という目的に達するには、富を生むべき資源を活用しなければならない。資源を生産的に使用する必要がある。これが企業の管理的な機能であり、この機能の経済的な側面が生産性である。労働、資本、原材料など、会計学や経済学のいう生産性要因のほかにも、生産性に重要な影響を与える要因がいくつかある。

  1. 知識
  2. 時間
  3. 製品の組み合わせ(プロダクト・ミックス)
  4. プロセスの組み合わせ(プロセス・ミックス)
  5. 自らの強み
  6. 組織構造の適切さ、および活動間のバランス

利益

利益とは、原因ではなく、結果である。マーケティング、イノベーション、生産性向上の結果手にするものである。したがって利益は、それ自体致命的に重要な経済的機能を果たす必要不可欠のものである。

  1. 利益は成果の判定基準である。
  2. 利益は不確実性というリスクに対する保険である。
  3. 利益はよりよい労働環境を生むための原資である。
  4. 利益は、衣料、国防、教育、オペラなど社会的サービスと満足をもたらす原資である。

(企業における「事業の定義」「目標設定」「経営戦略」は、別稿に譲る。)

公的機関の成果

現代社会において、企業は組織のひとつにすぎない。企業のマネジメントだけがマネジメントではない。政府機関、軍、学校、研究所、病院、労働組合、法律事務所、会計事務所、諸所の団体など、いずれも組織であり、マネジメントを必要とする。企業内サービス部門にもマネジメントがあり、成果をあげるべくマネジメントしなければならない。しかし、公的機関を含むサービス部門は、その成長と重要さに伴う成果をあげていない。

公的機関を廃止する可能性も、廃止できる可能性もない。われわれは、サービス機関が成果を上げるための方法を学ばなければならない。

公的機関と企業の違い

公的機関と企業の基本的な違いは、支払いの受け方にある。企業は顧客を満足させることによって支払いを受ける。顧客が欲しているもの、対価を払う気のあるものを生み出したときにのみ支払いを受ける。企業においては、顧客の満足が成果と業績を保障する。

ところが、公的機関は予算によって運営される。成果や業績に対して支払いを受けるのではない。このことは企業内サービス部門についてもいえる。成果に対する支払いは受けない。

予算から支払いを受けると言うことが、成果と業績の意味を変える。予算型組織では、成果とはより多くの予算獲得である。業績とは、予算を維持ないし増加させることである。したがって成果という言葉の通常の意味、すなわち市場への貢献や目標の達成は二義的となる。予算の獲得こそ、予算型組織の成果を計る第一の判定基準であり、存続のための第一の要件となる。しかるに予算と言うものは、そもそもの性格からして、貢献ではなく目論見に関わるものにほかならない。

人は、報われ方に応じて行動する。それは、報酬、昇進、メダル、誉め言葉のいずれであっても代わらない。予算型組織も、その支払いの受け方のゆえに、貢献ではなく予算を生み出すものこそ成果であり業績であると誤解する。これが予算型組織に特有の性質である。

公的機関成功の条件

公的機関にも種類があり、種類が違えば構造も違ってくる。だがあらゆる公的機関が、次の六つの規律を自ら課す必要がある。

  1. 「事業は何か、何であるべきか」を定義する。
  2. その目的に関わる定義に従い、明確な目標を導き出す。
  3. 活動の優先順位を決める。目標・成果の基準・期限を設定し、成果をあげるべく、仕事し、責任を明らかにするためである。
  4. 成果の尺度を決める。
  5. それらの尺度を用いて、自らの成果についてフィードバックを行う。成果による自己管理を確立しなければならない。
  6. 目標に照らして成果を監査する。目的に合致しなくなった目標や、実現不可能になった目標を明らかにしなければならない。恒久的な成功などありえない。

公的機関に必要なことは、企業の真似ではない。もちろん、成果について評価することは必要である。だがそれらのものは、なによりもまず、病院らしく、行政組織らしく、政府らしくしなければならない。自らに特有の使命、目的、機能について徹底的に検討しなければならない。

仕事と人間

マネジメントは、生産的な仕事を通じて、働く人たちに成果をあげさせなければならない。しかし、仕事の生産性をあげる上で必要とされるものと、人が生き生きと働く上で必要とされるものは違う。したがって、仕事の論理と労働の力学の双方にしたがって、マネジメントしなければならない。働く者が満足しても、仕事が生産的に行われなければ失敗であり、その逆も失敗である。

仕事の論理と労働の力学

仕事の論理とは、

  1. 基本的な作業を明らかにし、論理的な順序に並べ(分析)、
  2. 個々の業を一人一人の仕事に、そして、一人一人の仕事を生産プロセスに組み立て(プロセスへの統合)、
  3. 予期せざる偏差を感知し、プロセスの変更の必要を知り、必要な水準にプロセスを維持するためのフィードバックの仕組みを組み込む(管理手段)

ことである。

労働の力学には、5つの次元がある。

  1. 生理的な次元(ストレス)
  2. 心理的な次元(自己実現)
  3. 社会的な次元(コミュニティ)
  4. 経済的な次元(生計の資)
  5. 政治的な次元(権力関係)

これらすべての次元を考慮しなければならない。

生産性向上の条件

自己実現の第一歩は、仕事を生産的なものにすることである。仕事が要求するものを理解し、仕事を人の働きに即したものにしなければならない。科学的管理法は、自己実現に矛盾せず、補い合うものである。仕事を生産的にするには、4つのものが必要である。

  1. 分析(仕事に必要な作業と手順と道具を知る)
  2. 総合(作業を集めプロセスとして編成する)
  3. 管理(作業プロセスに方向付け、質と量、基準と例外についての管理手段を組み込む)
  4. 道具

さらに基本的なことは、成果すなわち仕事からのアウトプットを中心に考えなければならない。技能や知識などの仕事へのインプットは道具にすぎないのである。いかなる道具を、いつ何のために使うかは、アウトプットによって規定される。作業の組み立て、管理手段の設計、道具の使用など必要な作業を決めるのは成果である。

責任と保障

人が責任という重荷を負うためには何が必要か。焦点は、仕事にあわせなければならない。仕事がすべてではないが仕事が第一である。たしかに働くことの他の側面が不満足であれば、もっとも働きがいのある仕事さえ台無しになる。だが、そもそも仕事そのものにやりがいがなければ、どうにもならないのである。

働きがいを与えるには、仕事そのものに責任を持たせなければならない。そのためには、

  1. 生産的な仕事
  2. フィードバック情報
  3. 継続学習

が不可欠である。これら三条件は、働くものが自らの仕事、集団、成果について責任を持つための基盤である。しかし、これらはマネジメントが一方的に取り組むべき課題ではなく、実際に仕事をする者自身がはじめから参画していなければならない。実際に仕事をする者の知識、経験、欲求が、仕事のあらゆる段階において貴重な資源とならなければならないのである。

仕事をいかに行うべきかを検討することは、働くものとその集団の責任であり、仕事の仕方や成果の量や質は、彼らの責任である。したがって、仕事、職務、道具、プロセス、技能の向上は、彼らの責任なのである。

自らや作業者集団の職務の設計に責任を持たせることが成功するのは、心理的な要因だけでなく、彼らが唯一の専門化である分野において、彼らの知識と経験が生かされるからなのである。

とはいえ、仕事や収入を失うおそれがあるなかでは、仕事や集団、成果に責任を持つことは出来ない。責任の重荷を負うためには、仕事と収入の保証も必要であるといえる。

人のマネジメントの実践

必要なことは、

  1. 仕事と職場に対して、成果と責任の仕組みを組み込むこと
  2. 共に働く人たちを活かすべきものとして捉えること
  3. 強みが成果に結びつくように人を配置すること

である。

社会的責任

社会的責任の遂行は、マネジメントにとって第三の役割である。あらゆる組織のマネジメントが、自らの生み出す副産物について、すなわち自らの活動が人、環境、社会に与える影響について責任を持つ。さらにあらゆるマネジメントが、社会的な問題の発生を予期し解決することを期待される。

社会的責任は、次の二つの領域で生ずる。

  1. 自らの活動が社会に対して与える影響から生ずる(社会に対して行ったことに関わる責任)
  2. 自らの活動とは関わりなく社会自体の問題として生ずる(組織が社会のために行えることに関わる責任)

自らが社会に与える影響については、いかなる場合にも責任があり、それが原則である。この場合、費用対効果を考えながら、影響の原因となっている活動の中止、影響の除去、代替策を考える必要がある。これは、マネジメントの責任である。

社会の問題は、社会の機能不全であり、社会を退化させる病である。それは組織、特に企業のマネジメントにとっては、挑戦であり、機会の源泉である。社会の問題の解決を事業上の機会に転換することによって自らの利益とすることこそ、企業の機能であり、企業以外の組織の機能なのである。

参考文献

history of update
ver.1.00 2004.12.13 opened to the public.

「知の経営」推薦図書


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