マネジメントの基本構造

マネジメントの構造

1. 環境のマネジメント=対外マネジメント
→企業は環境の中に生きている生き物である。

2. 組織のマネジメント=体内マネジメント
→企業は人の集団である。

3. 矛盾と発展のマネジメント=外と内の調和のマネジメント
→企業は矛盾をテコに自らを変えていける生き物である。

環境のマネジメント

企業と環境の関係

企業は環境との間にさまざまな取引関係を持っており、企業は環境から資金、労働力、その経験や知識、その心理的なエネルギー、社会的信頼や暖簾などの資源を手に入れ、商品やサ−ビスを環境に対して供給する。また、この取引関係から得られる余剰として、利益をはじめ、技術や経験の蓄積、従業員の企業への忠誠心の蓄積、社会的信頼、顧客の商品への愛着があり、これらはすべて、企業と外部の関係者との取引の産物である。

環境マネジメントの基本目的

環境マネジメントの基本目的は、

の二つである。企業の一番の基本が、経済的存在としての「剰余の生産」であることにしても、企業活動が人々の自己実現活動になることも十分にあり、こうした多様な企業活動の意味をも考えて環境マネジメントを行わなければならない。しかし、成長プロセスにはリスクがつきものであり、このリスクを配慮しなければ、存続が危うくなるのである。

環境マネジメントの手段

成長という基本目的のために、競争への対応、事業の範囲の選択、制度の選択の三つが重要な手段となる。それと同様に、リスク削減においても、これらの三つが重要な手段となる。取引関係において、不確実性とリスクはつきものであり、その源泉は競争と事業環境の変化である。その対応として「競争の戦略」と「事業構造の戦略」が挙げられる(競争優位の前提として「マーケティング」が利用される)。しかし、それだけでリスクを完全に回避することは不可能で、リスクを分担するための「企業制度の選択」が行われ、分担者に対しては、相応のリターンを配分する必要がある。

組織のマネジメント

企業は環境との取引関係の中から余剰の付加価値を生み出すことによって存続し、成長を続けることができる。この余剰の付加価値を生み出す基本となるのは、企業が保有する経営資源である。企業は人的資源、物的資源、財務的資源、情報資源などの資源を保有している。これらの資源を有効に活用し、余剰の付加価値を生み出すには、一定の戦略を基にした資源の組織化が必要である。この経営資源の組織化が組織のマネジメントの基本的課題である。

伝統的には、組織のマネジメントの問題は、財務的資源や物的資源の組織化の問題として論じられてきた。しかし、モノやカネのレベルは、実は、企業や企業資源の結果を示すにすぎない。もっと重要なのは、人ならびに集団の活動の問題である。内部のマネジメントのより本質的な問題は、人間の問題、人間の集団の問題、人の組織化の問題に帰着するのである。

組織マネジメントの基本は、人をいかに動かすか、人を通じて経営資源をいかに組織化するか、つまり、いかにして人を通じて仕事を成し遂げるかという問題にある。

組織構造−企業とその調整

組織マネジメントの第一は、分業とその調整の仕組みである。分業の大きな効果の一つは専門的な経験の蓄積が行われることであり、分業によって、作業の効率化が行われる。それによって、長期的な戦略を作ることもできる。

分業は同時に調整を必要とする。突発的な事態が起こったときにどのように対応し、誰が誰に報告あるいは連絡するかを決めておかなければならない。

このような分業と調整の枠組みを組織構造という。組織構造は、規則、職務遂行マニュアルとして整備されていくかもしれないし、仕事しているうちに自然と出来上がってくるかもしれない。

インセンティブ・システム

組織構造は、人々が何をすべきかの大筋を決めたものである。それを決めた後、重要な問題が残っている。それは、より熱心にやってくれるようにする動機付けの問題である。動機付けの問題には、

にある。仕事意欲を引き出す重要な手立てとなるが、管理の仕組みである。仕事を熱心になってもらうための最も基本的な方法はお金である。しかし、お金だけではなく、仕事のやりがいにあるものもいる。このような問題を解決するための基本的な枠組みをインセンティブ・システムという。

計画とコントロール

繁栄を持続させるためには、将来のことを事前に考え、必要な行動を順序だててとっていかなければならない。それを予定しておくことを計画という。しかし、不確実で常に変化している時代では、計画通りに物事が運ぶとは限らない。計画の実行をチェックし必要なアクションを取ることをコントロールという。

組織の本質−協働

組織構造、インセンティブ・システム、計画とコントロールのシステムは協働のための仕組みである。このような仕組みを作ることは、内部組織のマネジメントの基本的手段である。しかし、組織の本質たる協働を、効果的に行う仕組みだけでは不足である。

組織文化

組織文化とは、職場の風土、雰囲気、文化といわれるものである。人々がともに働いていると、自然発生的に生み出されてくるものである。共通の価値観、さまざまな状況でどのように行動すべきかについての目に見えないルール(行動規範)、共通のものの見方や考え方のことをいう。

人の配置と育成

分業により、効率化は図られるが、持続的繁栄のためには、仕事の重複や、同じ組織内での競争意識というものが必要になる。このような要素を考えて、誰にどのような仕事をいつまでやらせるかを決めるのが、人の配置と育成である。

リーダーシップ

仕組みや組織文化はそれだけでは、うまく機能しない。それには、経営者の行動が必要である。組織文化は自然発生的なものであるが、それを形作るうえで、大きな影響力を与えるのは、経営者の考え方、哲学や言動である。そのような経営者の哲学を経営理念という。こうした、経営者の行動を通じて、協働を促進する。

組織のマネジメントの本質

組織のマネジメントの本質は、「経営者や管理者が人々の活動を完全に支配すること」ととらえてはならない。それは、現実として正しくない。人々はそれぞれに判断力を持ち、自立的に働ける能力と希望を持ち、お互いにコミュニケーションを図りながら、それぞれに働いており、組織は常に何らかの価値で自らを管理しているのである。

経営者や管理者が行うことができるのは、これらの人々に影響を及ぼすことである。人々が持っている自然な共同の能力をうまく利用することである。そのための条件作りが組織のマネジメントなのである。マネジメントの本質を共同的努力の仕組みの形成と維持と捉えると、組織のマネジメントの理論の基本的な質問は、

ということである。

矛盾と発展のマネジメント

企業の内外には、均衡状態を打ち破ろうとする力が存在している。企業が、たとえ均衡や整合性を維持しようとしても、不均衡やジレンマを生み出そうとする力が、環境に、また企業の内部に存在しているのである。企業の発展には矛盾はつきものなのである。

企業の矛盾

外界の変化

企業の均衡を破ろうとする力は、まず環境に存在している。それは、

であり、環境の不確実性や競争は、常に技術条件や市場条件を変化させ、均衡を破壊するのである。

成功そのもの

企業の成功そのものが企業の矛盾をもたらすことがある。

一つは、環境を媒介とした均衡破壊である。企業がある戦略で成功すると、企業の市場シェアは上昇する。しかし、市場シェアの上昇そのものが、企業の戦略を無意味にしてしまう。市場での成功がその成功をもたらした戦略を取り続けようとする企業の体制との間に矛盾を起こしてしまう。

もう一つは、成功が企業内部に矛盾をもたらす場合である。成功によって、企業の規模は拡大するが、規模の拡大によって、企業のそれまでのやり方が通用しなくなるかもしれない。組織マネジメントのあり方と環境の要請との間に矛盾が出てくる。

また、長期にわたる成功は、企業の中に、気の緩み、油断、慢心をもたらすかもしれない。それは、熱心さや外界に対する感度を失わせ、企業の内部に新しい矛盾を作り始めるのである。

学習能力

企業の中に矛盾をもたらす第3の原因は、人々の学習能力である。人々は日常の仕事を通じて、さまざまな情報を獲得し、その仕事に適合した見方や考え方を獲得していく。それは、企業にとって貴重な経営資源になると同時に、企業の内部のさまざまな不均衡を作り出す。

組織のマネジメントのジレンマ

環境のマネジメントの基本的要請のキーワードを挙げれば、それは、革新、競争、代謝、多様性といったことになる。一方で、組織のマネジメントの基本的要請のキーワードは、安定、調和、保存、凝集性といったものになる。革新と安定、競争と調和、保存と代謝、多様性と凝集性、いずれも少なくとも表面的には矛盾する。その矛盾が実は組織のマネジメントにジレンマをもたらす。

組織のマネジメントには、環境の要請だけではなく、組織の中の個人の要請との間でのジレンマもある。個人の要請にこたえなければ、組織の協働は究極的にはうまくいかない。しかし、個人の要請を受け入れると、環境の要請にこたえられるような企業行動を取れなくなる危険がある。組織のマネジメントは、内なる個人の要請と外なる環境の要請の板ばさみになっている。そこに多くの矛盾が生まれる源泉がある。

こうした要請の矛盾に対応するためには、企業の取る行動の間に一見矛盾とも思えるものが多くなる必然性がある。企業が発展するということは、事業の拡大であり、組織の拡大を意味する。矛盾の生まれる契機は、発展とともに大きくなる。従って、矛盾のマネジメントが発展のマネジメントには不可欠である。

企業の発展と学習

企業の発展とともに、学習が企業の内部で進み、それが不均衡の源を企業の内部に形成していくと同時に、学習による企業の情報的経営資源の蓄積は、企業の発展の源でもある。矛盾の存在は、関係者にとっては望ましくない状態である。だからこそ、それを解消しようとして、人々は考え、努力し、学習する。そこでは、矛盾が学習のための心理的エネルギーの供給のきっかけの役割を果たしている。

矛盾を解決することが企業の発展に必要であるのと同時に、矛盾の意義はより積極的に、矛盾を利用して学習を促進し、その結果として企業が発展していくのである。

企業の発展と組織の慣性

組織に発生する慣性をどう打ち破っていくかも、発展のマネジメントの重要な要素である。企業の発展には、さまざまな新陳代謝が不可欠である。さまざまな新しいことを始めることは、同時にそれまでの古いことを捨てる必要がある。しかし、人間には慣性があり、過去の価値観やパラダイムや利害が染み付いている。しかし、そこから脱却しなければ、新しいものへの挑戦に必要なエネルギーも、新しいものの見方も生まれてこない。その意味で、意識とエネルギーの両面での慣性との戦いが企業の発展には必要となる。

システム・ロック

企業の仕事の仕組みや組織の仕組みといったシステム構造のために、慣性のロックがかかっているものである。システム・ロックはさらに、

に分けられる。システム・ロックは、そもそも、組織のマネジメントの必要性があって作られた仕組みゆえに、余計にロックがかかりやすいのである。

ヒューマン・ロック

企業を構成する人々のものの考え方や感情のために、慣性のロックがかかっているものである。ヒューマン・ロックはさらに、

に分けられる。思考のロックは、組織のマネジメントのための必要性があり、ある意味、ロックが一番きついかもしれない。

企業の発展のマネジメント

慣性によるロックをはずす道を考えなければ、企業の発展のマネジメントは動いていかない。しかし、慣性のロックがかかった状態は、その状態なりにさまざまなつじつまがあった状態であり、経営内部には、相互に矛盾が少ない状態とも言えるのである。その状態から抜け出すためには、矛盾を創造する必要がある。慣性から抜け出すために利用すべき矛盾は、多くの場合、意図的に作り出す必要がある。

矛盾のマネジメントはさまざまな意味で企業の発展のマネジメントには不可欠である。そこには、2種類の矛盾のマネジメントがあり、

である。


出典:伊丹敬之・加護野忠男『ゼミナール経営学入門』日本経済新聞社(1989)

参考文献

history of update
ver.1.02 2004.12.06 誤植訂正。
ver.1.01 2004.02.04 opened to the public.

「知の経営」推薦図書


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